ひらひらと舞う戦法

こんにちは。
はなひ堂新井です。


今日は日曜日ですが、ひさしぶりに買取窓口を開けていました。


月曜から土曜日までは誰かしらスタッフがいるので私が出張買取に行っていても問題ないのですが、日曜日だけは私しかおらず、そのため私が出張買取に行くと誰もいなくなり閉めざるを得ないという状況になっています(ご不便をおかけしており、大変申し訳ございません)。


ですが今日は幸か不幸か出張買取の予定がなく、無事に開けることができました。


すると朝早く、フィギュア等をお持ち込み頂きました。ありがとうございます!


その後、お昼前に甥っ子が来て、将棋を覚えたので一緒にしようということになり、一局指すことに。


角をひらひらと動かす謎の戦法を駆使していたので、見かねて「棒銀(将棋の戦法)」を教えました。


将棋を知らない人に簡単に説明すると、「棒銀」というのは飛車先を突いて飛車と銀と桂で攻める…と書いてもわかりにくいのでもっとシンプルに書くと、将棋で最も単純でわかりやすく、かつ効果的な戦法が棒銀と言ってもいいと思います。


その破壊力は絶大で、この戦法をある程度覚えれば少し格上の人も軽々と撃破できてしまうほどの破壊力があります。


なぜこのシンプルな戦法が暴力的なまでに実効性が高い理由は、初級者の将棋は守るのがとても難しく、守りを一手間違えただけでボロボロになってしまうゲームであり、「棒銀」はそこを効果的に突ける戦法だからです。


なので逆に言うと「棒銀」で受け(守り)を間違えた時の悔しさは尋常ではなく、ミスを突かれただけでなく、己の未熟さをも突かれているような気さえする、守る立場から見るととてつもなく嫌な戦法の一つでもあります。


そんな戦法である棒銀を教えたのですが、果たしてそれは彼のためになったのかどうかと自問してしまいます。


もちろん棒銀を駆使すれば、その戦法で同学年を負かし、格上を負かすこともあるかもしれません。


ですが将棋の醍醐味はそこにしかないのかと言われると、その限りではありません。


そして棒銀は対戦相手に嫌われ、ひいては日常生活に支障が出る可能性もあるかもしれません。


では最初に彼が使っていた「角をひらひらさせる戦法(?)」はどうか。


その戦法は勝つための戦法とは言い難く、何か隙があれば相手の駒を取ってしまおう、というくらいの勝ちとはほど遠い戦法のように見えます。


ですがその戦法には相手を不快にさせる要素は少なく、勝てればいいかな?くらいの意志を滲ませながら、角がひらひらと盤上を舞っている戦法なのです。


そこには勝とうという意志よりもむしろ、彼の美学が表現されているようにも見えます。勝つよりも美しく舞おうと。


将棋とは一体何を目指したゲームなのか?


その答えは私にはわかりませんが、古本屋とは勝つことを第一にした商売ではありません。


当然商売が成り立つのは絶対条件ですが、古本屋とは、商売として成り立ったその上で自分なりに舞おうという表現ではなかったか。


つまり古本屋とは棒銀的ではなく、むしろ「角をひらひらさせる戦法(?)」をこそ愛してやまない仕事ではなかったか。


棒銀を甥っ子に教えていてはたと気が付きます。


そして棒銀を教えた過ちを恥じ、こっそりと甥の顔を見ます。


すると棒銀の説明をつまらなそうに聞いている甥の顔が見え、安心しました。


彼は明日も美しく盤上を舞うでしょう。


そして私は祈ります。彼がこれからも盤上を舞うことを。そしてできれば将来、古本屋になることだけは避けることを。

はなひ堂ブログ 2018年3月11日