旧版は誤った情報なのか
こんにちは。
はなひ堂新井です。
最近、グーグル検索で医療ジャンルのページは信頼のおける機関なり個人によって編集されたものでなければ検索上位に表示されにくくなった、という話を聞きました。
これが真実かどうかはさておき(といっても医療にもウェブページにも明るくない私に真実かどうかを検証するすべはないのですが(^_^;))、誤った医療情報が上位に来るのは問題に思えますし、その全医療ページの情報の真偽をグーグルさんが検証することも難しいと思いますので、信頼のおける権威が上位に来るのは悪いことではないと思いますが、そこには難しい問題が潜んでいるのは間違いありません。
そんなわけで今回は医療情報とウェブページの話…ではなく、そういえば古本屋にも似たような問題はあるなと思ったので、それを書かせていただきたいと思います。
当店は医学書の買取りにも力を入れており、ときおり買取りさせていただくこともあります。
そんな時はひたすらに書籍の相場を調べて査定額をお出ししています。
そして医学書の場合、新しい版が出ると旧版は極端に売れなくなる傾向にあります。
私なんかは「それほど加筆修正が行われていないならば安くなった旧版にも需要はあるはず」と思うのですが、それほどまでに医療関係者は最新の情報かどうかについてシビアということなのでしょう。旧版にはほとんど目もくれないという印象です。
もちろん実務者は情報によって人の生死にも関わる可能性があるのですから、最新の情報を入手する必要があると考えるのは当然のように思います。私の認識のみが甘いのでしょう。
新版は最新の情報であることはわかった。では旧版は誤った情報となっているのか、という問題があります。
これは本のジャンルが違えば明らかに誤りと言えそうです。例えばカントの「純粋理性批判」の初版と二版は大幅な加筆修正が行われていますが、二版は主にカントの問題意識が変わったために行われた加筆修正であり、そのため「初版が誤っている」とは断言しづらいと思います(原書とか読んでませんので信憑性はありません(^_^;))。
また、「手塚治虫の初出のみが真実で、(加筆された)単行本化されたものは誤りだ!」と言われれば、それはそれでその熱気に押されそうにはなりますが(^_^;)、誤っているかどうかはわかりません(そもそも何が誤っているのかわかりません)。
そして世の中には明らかに誤った医療情報が書かれた本もあります。それらはもちろん中山書店や南山堂などの権威ある医学書系の出版社から出されたものではなく、あまりなじみのない出版社から出されたもので、パラパラとページをめくれば医学と宗教的(幻想的)世界が混同された不思議な景色が描かれています。
ですが古本界とは魔物の住処。それらの一部はオカルト本として高値で取引されることもあり、一体なぜこの本にこれほどの価値があるかは長年古本を扱っていても理解し難いものも多数あります。
話が逸れてしまいましたが、旧版は誤った情報なのかという問題でした。
それについて古本屋が判断するのは至難の業です。
古本屋はテキストの精査に秀でているのではなく(秀でている人もいるとは思いますが、少なくとも私はそうではありません)、その相場やぼんやりとした内容から世間的に需要があるかどうかを嗅ぎ分ける鼻を持っている(ように見える)にすぎません。
なのでその旧版が誤った情報なのかを判断することは不可能だと思います。そうでなくとも、新版とどのような点で劣っているか判断することは(一部可能だとしても)困難だと思います。
かつてお客様から言われた言葉を思い出します。
それは当店がある雑誌のバックナンバーを売っていて、それを現在発売されているものと勘違いして購入されたお客様がおっしゃった言葉でした。
「あなたは世間的に不要である本を売っているあくどい輩だ」と(もちろん返品、返金させていただきました)。
その雑誌のバックナンバーに需要があることを当店は知っていたので販売していました。
ですが全てのナックナンバーに精通しているわけではありません。
内容を把握されないまま値付けされている商品は多数あります。
なのでお客様のおっしゃった「世間的に不要な本」を売っている可能性はあります。
そしてその言葉は胸に刺さり、今でも時折思い出します。
その旧版は誤った情報なのか。
それについて古本屋は判断できません。
そしてもし誤った情報であるとしたら、その本を売る我々は「世間的に不要である本を売るあくどい輩」なのか。
誤った医療情報の順位を下げる必要は我々にはないのか。
グーグルの検索順位の話を聞きながら思ったのはそんなことでした。
はなひ堂ブログ 2018年5月27日